2022年の製造業の変革を占う指標として「2021年版ものづくり白書」を参考にしたい。同書では製造業のニューノーマルとして「レジリエンス、グリーン、デジタル」の3つを挙げて生き残るうえでの鍵として示しているが、同時にこれらは競争から勝ち残るビジネスチャンスとも捉えることができる。
「レジリエンス」とはサプライチェーンの強靭化を示している。自然災害や新型コロナの世界的な感染拡大はサプライチェーンに大きな混乱をきたすことがわかった。BCPを策定する企業は年々増加しているが、大手メーカーでは調達先の把握、いわゆるサプライチェーンを可視化する取組みが進むと思われ、このニーズに対応できるサプライヤーが重視されてくる。コロナ禍ではファスナーメーカーの中でも在庫の強化や物流拠点の強化を図る動きが見られた。ユーザーの替わりにサプライヤーが在庫を抱えるという旧態依然のカンバン方式から脱却できる画期的な仕組みも登場するのではないか。
「グリーン」はカーボンニュートラルへの対応だ。日本を含めた各国政府は2050年までのカーボンニュートラルを目指すと表明している。欧州では独大手化学メーカーが製品の原材料調達から出荷までの温室効果ガス排出量を算出して顧客に提供を開始すると発表しており、この動きはサプライチェーン全体を巻き込んだ世界の潮流となる可能性がある。ファスナー製造工程における大きな技術刷新は難しいと思われるが非調質線材などの画期的技術がまったく無いわけではない。流通を含めた一部工程に注目するなど、小さなグリーン対応を積み重ねることができる企業が、新しい取引を生む可能性があるのではないか。同書では金融機関の資金供給の判断材料にも「グリーン」は大きなウエイトを占めていくとされ、資金調達のチャンスととらえるべきと指摘している。
そして「デジタル」。DXという言葉が登場して久しいが、多くの企業がいまだDXの取組みを行えていないのが現状だ。「何に活用して良いのかわからない。人材がいない。資金がない」という声を聞くが、これらは経済産業省等が管轄する地域の機関に支援を仰げば大方解決できるはずだ。社内をDX化するのではなく、すでにDX化された新しい仕組みを活用するという考え方もある。例えばユーザーからの図面で最適なサプライヤーを都度選択して見積を作成するといったプラットフォームの登場が新しいものづくりの仕組みとして注目されている。こうした新サービスに自社が組み込まれることで特定の商権に依存することのない体質を作り上げることができる。今年はこの3つの鍵に注目して事業を進めていきたい。