2022年度の税制改正の目玉になる賃上げ税制の見直しが注目されている。
賃上げに積極的な企業を支援する賃上げ税制は、法人税から差し引く控除率を賃上げの取り組み状況に応じて、現在の15%から、大企業で最大30%、中小企業で最大40%に引き上げる。
例えば中小企業は従業員を対象にして給与やボーナスの総額が前年度より1・5%以上増えた場合、15%を法人税から差し引かれ、2・5%以上であれば30%まで拡大。さらに従業員の教育訓練費の前年度より10%以上増やした場合はさらに控除率10%が上乗せされ最大で40%の控除率となる。
もともと賃上げ税制は、安倍政権時代の2013年度よりスタートしている制度だが、この間に日本の平均給与が上がっていないのが実態だった。岸田政権の目指す「成長と分配」の肝いり政策のひとつであり、控除率を大幅に引き上げた今回の改正で賃上げが進むのかどうか注目されるところだ。
ただし賃上げを進める以外に、企業が事業活動で得られる売上・利益を伸ばすための「成長」を視点にした政策も並行して進めてもらいたい。
税制優遇は時限的措置であり恒久的なものではない。今回の税制改革で一時的に賃金が上昇しても、そこから先は上昇した賃金を企業が成長しながら捻出していく必要がある。このためには、やはり「分配」に頼らない健全な企業の成長が求められる。成長できない企業は賃上げが重石となり企業存続に影響を及ぼすこととなる。
日本の製造業を見ると、サプライチェーンの頂点から下層へと「コスト低減」に大きく比重を置き、高い品質やサービスが適正に対価として認められないまま、利益を辛うじて捻出する仕組みが変わらず続いている。そしてその利益の捻出は下層に行くほど厳しいものとなっている。ファスナー業界も、原材料が高騰する今、値上げを認めないと材料が購入できないのに関わらず、買い手からは自社製品の値上げを中々認められないという板挟みの状況に陥っている。多くのサプライヤー業界でこうした状況が続いている一方、サプライチェーン頂点企業が過去最高の利益を上げている事実は、日本に構造上の問題があると言わざるを得ない。自動車1台の価格が上昇している一方で給与の上がらない日本人が車を「高い」と感じる状況はこれに遠因している。
日本の柱である製造業の構造的問題は、日本人の所得にも大きく影響しているものであり、日本が先進国をこの先維持できるかどうかの岐路だ。政府には「成長と分配」をバランス良く、かつ強力に進めていく政策を期待したい。