トヨタ自動車が日本製鉄から集中購買する自動車用鋼材の今年度下半期の価格交渉が大幅値上げで決着したもようだ。
1㌧当たり2万円の引き上げと見られ、両社の価格交渉は多岐にわたる鋼材価格の目安となるため2年ぶりの値上げは本紙業界でもインパクトが大きい。鉄鉱石の価格高騰や中国からの鋼材需要増をはじめ経済環境があらゆる鉄鋼の値上げ要素を含んでいた中で、ここ2年は圧倒的な購買量を盾に自動車メーカー1強が値上げを認めず交渉を有利に進めてきた形だが、今回、資材高騰で苦しむ鉄鋼メーカー側がその量を逆手に交渉で「値上げを受け入れられないと供給量を減らす」と価格引き上げを求めたもようで(日本経済新聞8月26日付)、これが2年ぶり値上げの切り札となったようだ。
これまで集購材の価格が維持(ステイ)されてきた一方で、市場に流通する店売りの価格は、世界的な経済環境の影響を受けて大きく値上がりしており、これが集購材とプロパー材の価格の差を広げる状況となり、ファスナーメーカーをはじめプロパー材を主に使う部品メーカーは、「集購の鋼材価格がステイしている状況での材料値上げにともなう製品価格への転嫁」という〝一見すると〟不可解な難しい交渉をユーザーと行わなければならなかった。
ただプロパー材の価格上昇は公知の事実のため、直近ではユーザーも値上げ受入れやむなしのマインドが強く、ファスナーメーカー側からも値上げが認められず利益の出ない案件を断るケースも増えていたが、これまで値決めに〝集購連動〟の方式をとってきたメーカーにとっては不利な要素が強かったと思われる。部品メーカーが値決め要素に集購連動を採用するメリットは、明確な集購価格の上げ下げで自動的に決定できるためユーザーとの難しい価格交渉をする必要がないこと、自己調達するプロパー材の購買管理によっては集購価格が値上がりした際に利益を生むことができる点であろう。この場合、これまでの「集購ステイ―プロパー高騰」基調の状態は厳しい環境だったはずだ。
こうした中で今回の2年ぶりの集購材の値上げ決着は、ファスナー企業にとって、これまでより価格転嫁しやすい環境が整ったといえ、好意的に捉える企業も多いはずだ。一方既にこれまでの材料高騰分を価格転嫁してひと段落したメーカーにとっては、今回の集購材の値上げ決着を要素として、いつ新たに価格転嫁していくかが課題となってくる。また値上げした川上の鉄鋼メーカーと値上げを認めた川下の最終ユーザーに挟まれるサプライヤーのみが鋼材値上げによるコスト上昇分の痛みをかぶる構図は避けなければいけない。