新型コロナウイルスの感染拡大が製造業にも多方面で影響を及ぼしている。政府は4月16日に緊急事態宣言をこれまでの7都府県(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)に加えて全国に発令した。
緊急事態宣言により休止を要請されている施設には工場が含まれておらず、「社会生活を維持する上で必要な施設」として「適切な感染防止対策の協力要請」により稼働が認められている(原稿執筆時点)が、大手ユーザーの工場では需要停滞による生産調整や従業員の感染防止を目的に一部停止する動きも見られる。某大手電機メーカーでは国内100カ所の工場の一部稼働停止や生産縮小を検討しているという。緊急事態宣言が解除される見込みの5月6日までの処置というが実際にこの日までに事態が収束しているのかという不安を誰しもが抱いていることだろう。
ファスナー業界では工場やオフィスへの入室の際の衛生管理ルールを徹底するなどは勿論のこと、足を運ぶ営業や面会を自粛してオンラインでの商談に対応する取組み、自宅待機や時短勤務にするといった取組みも始まっている。モノを扱う産業であるため現場の社員をはじめ、完全に在宅勤務にシフトすることは難しいが、一部の業務、一部の職種、一部の時間帯といった部分的なリモート作業により少しでも感染リスクを抑える取組みは検討する余地がありそうだ。
現在国や自治体でリモートワークを推進するための機器導入の補助制度は平時よりも手厚い支援を実施、または近く予定されている。収束後の自社の働き方改革を見据えて導入する好機と捉えても良い。このほか中小企業に対する緊急支援制度を総合的に順次把握するためには、本紙4月13日付号でも取り上げた経済産業省の専用サイト「ミラサポPlus」を利用するのが便利と思われる。
一人でも感染者を出したら一定期間は工場や営業拠点の停止を余儀なくされる。感染リスクを抑える取組みがたとえ通常業務を一部圧迫するものだったとしても、事業停止という最悪の事態を回避するためには絶対必要な取組みと捉えるべきだろう。
「アフターコロナ」や「コロナショック後」という言葉が使われ始めているようだが、これまでの社会や価値観が一変すると予測できる。ビジネスの側面だけでも、世界から見た日本の立ち位置、モノづくり、人の働き方、デジタル技術、都市分散―など様々で、これらをキーワードにビジネスも大きく変化するだろう。さらに高い視点で見ると、ウイルスは「人とは何か」という問いを投げかけているような気がする。人類はその答えを導き出すことができるだろうか。