2018FIFAワールド杯ロシアが閉幕した。日本は2大会ぶりのベスト16進出となり国内が久しぶりに沸いた。世界で最も人気のあるスポーツで先進国とはまだ言えない日本が強豪国に挑む形となり、国家間の外交やグローバル経済とは違った視点から世界における日本の立ち位置を感じる機会となった。
西野監督率いる日本代表が各国のサッカーファンやメディアに注目を浴びたひとつに、ベスト16進出をかけたグループステージ第3戦のポーランド戦で見せた、いわゆる〝ボール回し〟がある。後半10分、1点ビハインドの劣勢の中で、グループ内の他試合の途中結果から自軍のグループステージ突破を見越して、これ以上攻撃を仕掛け、さらに1点奪われるリスクを回避するために、ボールを回して時間稼ぎすることを選んだチームに、賛否両論が起きた。この戦略について業界各社の方々にも意見を聞いたが、「せめて1勝して面子を守りたいグループステージ敗退のポーランドの思惑までも利用した見事な戦略」と好意的に捉えた意見や「日本人なら敗けても良いから攻撃してほしかった」など、やはり世間と同様に意見が分かれた。
結果を出すために戦略があるのだとしたら、求められていた結果が出た以上、どんなに美しくない戦術であってもそれは正しかったと言えるのではないか。しかしもし、ポーランドにさらに追加点を奪われたり、他試合(コロンビア×セネガル戦)が予想に反した結果に終わり、日本のグループ敗退が決まった場合は、この戦術をとった日本代表は凄まじい非難を浴びせられていただろう。この大きなリスクを理解して賭けに挑み実際にグループリーグ進出という〝勝ち〟を得た西野監督は相当肝が据わっていた。決勝トーナメントでのベルギー戦でも、その知略ぶりを大いに発揮して2点先行からのまさかの逆転敗けを防いで欲しかったが、これは望みすぎと捉えて悔しさを抑えたい。
他者都合の勝手な批判に動じることなく、強かに自分たちの結果を追い求めた日本代表は、世界の舞台に立ち始めた日本が変わりつつあることを示している。
少し話は飛躍するが、政治やビジネスで他国や他者にどうしても「ノー」と言えない弱腰の日本と日本人がいる。製造業においても安い仕事にはそれ以上の価値を求められる道理はなく、高い仕事だからこそ価値をつけることができるはずなのだが残念ながら現実にはそれが成り立っていない。「おもてなし」が、何でも要求を飲む都合の良い言葉なのであれば世界に胸を張って掲げるようなものではなく、捨ててしまった方が良い。世界の人々が、敗戦後ロッカールームを清掃して去った日本代表の高潔性を真に理解できる日はまだ遠い。