世界中から注目を集めたものの、後の両者の発表でみる限りチグハグ感が否めない結果となった米朝首脳会談。その1週間前、会談の事前報道が〝過熱〟する中で原案が公表され、先ごろ閣議決定された「経済財政運営と改革に関する基本方針」(骨太の方針)は、同時に明文化された「未来投資戦略」に眼を奪われがちだが、早くも経済界や学識者からは厳しい見解が相次いでいる。
今回の骨太の方針では様々な問題点が指摘されているが、特に疑問視されているのは財政健全化と消費増税。前者は国と地方の基礎的財政収支を黒字化する時期を2020年度から25年度へ先送りしたことで、今後の経済成長率を実質2%、名目3%以上という前提での見通しに加え、現状の低金利頼みという側面があるだけに早くもその実効性が危ぶまれている。
この5年先送りされた黒字化目標達成には歳出改革が不可欠だが、肝心の社会保障費の抑制については数値目標なども示されていない。少子高齢化社会を背景に、むしろ安易に国民にツケを回そうとする姿勢が窺われることは、参議院選挙制度改革を巡り1票の格差是正や合区対策として〝定数6増〟とする公職選挙法改正案を提出した政府与党の動きを見ても明らかで、〝安倍1強〟には「身を切る改革」という言葉は無縁のようだ。
また産業界にとって関心が高いのは消費増税。政府が19年10月に予定している消費税率10%への引き上げは、当初15年10月とされたが14年11月に1年半の延期を決定し、さらに16年6月に再延期を決め、19年10月へ2年半先送りされた経緯がある。もとより前出の財政収支黒字化へ折り込み済みのプランなのだが、消費税率引き上げは駆け込み需要とその反動減が当然予想される。
国税庁は同時に実施予定の軽減税率制度適用に向け、問い合わせ対応の準備を進めているようだが、その周知徹底にはきめ細かい様々なフォロー策も必要だ。そして〝大盤振る舞い〟目的の増税ではなく、引き続き歳出削減を図り、個人消費をより喚起する中で産業構造の基盤強化を進め、企業収益向上による税収増を目指して貰いたいところだ。
このほか骨太の方針では「働き方改革」や「人づくり革命」による女性や高齢者、外国人の社会参加を促す方策なども打ち出されているが、財政再建の要となる財務省は、セクハラや決裁文書改ざん問題などで信頼感、存在感が薄くなっている。
先進国の中でも突出した財政赤字(国と地方合計の長期債務残高1100兆円=GDPの2倍)を抱えているだけに、安倍政権には喫緊の課題として具体的かつ抜本的な歳出削減への道筋を示し、本当の意味での財政再建に取り組んで貰いたい。