現在、公共建築物の老朽化に伴う補修や改築は喫緊の課題である。東南海地震や首都直下地震の脅威が迫っているとともに、たとえ地震のない状況においても老朽化そのものによる自然崩壊の危険性が危惧される。国・地方公共団体の財政上の問題により完全な建て替えが困難であっても、対処療法的であれ全国的に補修が必要であり、これに関連する部材はこれから需要が増加する分野であろうと考えられるし、また、安全の為にはそうでなければならない。橋脚だけ取ってみても、高度成長期に急ピッチで建設されたものが多数あるがために、全国73万橋のうち20%超が建設後50年を経過しており、さらに2026年にはこれが約45%へと増加する。
また、建築物の補修は人命を救うに加え、経済成長の土台としても重要である。米国では第二次大戦以前に造られた建築物が戦禍にさらされること無く利用され続けていたために、我が国よりもずっと早く、すでに80年代には公共建築物の全国的な危機が経済にまで影響を及ぼし、一時は荒廃するアメリカとまで呼ばれた。しかしその後、勇気をもって時の指導者たちがインフラの補修・改築へと踏み切ったことにより、現在、先進国の中で一人勝ちとも言える良好な経済成長を成し遂げているのである。社会資本の荒廃は経済の荒廃を招く。屈強なインフラ環境が米国経済の繁栄を支えていることは、我が国も教訓として学ぶべきところである。
併せて、防災に関連した部材・建築の研究開発も安全性を高める技術を向上させるうえで重要である。本日の一面でも伝えているように、今年も鋼構造研究助成(日本鉄鋼連盟)のテーマが採択され、高力ボルトに関わる研究が新たに2件採択された。建築物の老朽化の問題が高まりを見せるほど、ねじの需要に加え、必然的にねじの安全な使用方法や、点検方法、補修方法、設計方法などに関わる高度な学術的・科学的知見の活用が必要になり、大学等研究機関等の果たす役割は重要度をましてくる。また、民間企業における研究開発と学術機関における研究開発との垣根を低くし協働するサポイン制度の普及と活用も防災技術の向上のために、これまで以上に進展させていく必要がある。
また、老朽化の問題解決には政治の指導力が欠かせない。民間建築の需給に限って神の見えざる手にまかせたとしても、社会資本の整備だけは政府機関の強力な政策立案力が求められる。国と全国の自治体の財政難、少子化や売り手市場に伴う建設要員の不足等といった、公共事業の推進を阻む環境のなかでやりくりしながら、対費用効果を最大に高める質の良い財政支出が求められる。