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「忖度」が日本の製造業を停滞させる

昨年から明るみになったいわゆる「モリカケ問題」頃から注目されるようになった言葉「忖度」。日本人の美徳でもあり欠点でもあるこの言葉が今、日本の製造業を停滞させようとしている。

忖度を辞書で引くと「他人の心をおしはかること。また、おしはかって相手に配慮すること」とある。相手が口に出さずとも、その気持ちを読み取り配慮してあげることは良いことだ。しかし必ずしも良いことだけではないことは、前述のモリカケ問題を知る我々は理解したはずだ。

モリカケ問題しかり、思えば最近報道の多いパワハラ問題しかり、事件が沈静化しても結局「誰が言った、言わない」がよく判らず、釈然としないまま終わってしまう問題が多いのも、忖度や曖昧さを好む日本人ならではの事象と言えるだろう。

素材メーカーのデータ改ざん問題など度重なるコンプライアンス違反も、そこには日本人の忖度した行動が垣間見えた。改ざんは何十年前から慣行化されていたと言われるが、その期間中に担当者は何人も引き継がれたはず。改ざんの実態に始めこそ疑問を持ちながらも前任者に言われるがまま引き継ぎが行われ、そして自身もいつからかその疑問に何も感じなくなってしまうという繰り返しの端緒には、上司や前任者への忖度というものが一部であったかもしれない。おそらく不正に関与してしまった人々も積極的に取引先を騙そうという気持ちはなく、長年の取引慣行や上司、取引先への忖度が複雑に交じり合った結果とも思える。

その行動には、言わずとも相手の意図を組んでやれる感覚。例えば、馴染みのバーに行き、何を言わなくともお気に入りの酒が出てくる。酒を出す方も出される方も互いに幸福感や、安心感のような感覚と似たものがあるかもしれない。この例えのみで言うと粋≠フような感覚にも見てとれるが、この感覚、リズムのようなものを履き違えてビジネスの世界に持ち込んでしまうと問題が生じてしまう。

「それは変化点になるからユーザーに提案できないし、提案しても採用されない」。ファスナー業界、特に自動車関連と取引する企業で良く聞く諦めの言葉だ。素材、加工方法、検査方法、人員配置…、生産工程に関わるこれらの変更は僅かなものであっても、全て変化点と見なされ申請が必要となる場合がある。品質的にもコスト的にも改善できる提案であっても、余程良い提案でもない限り「今、何も問題が起こらずに流れているから」と言う理由で変化を避けたがる傾向にある。改善を提案する側もされる側もそこには誰かに対する忖度が生まれている。

悪い意味の忖度で結ばれたサプライチェーンは脆い。

2018/10/15 金属産業新聞